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黒髪の殻 リリース記事

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kindle unlmited、キンドルオーナーライブラリーで読めます。
黒髪の殻/牛野小雪 高校を中退した正人は叔父のすすめで大工に弟子入りする。
いつかは親方を殺すという執念でもって正人は三年の修業をくぐり抜けた。
しかし正人は半分無実の罪で刑務所に入ってしまう。

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 気付けばいつも嫌われている。理由は分からない。ある時それに気付き、人に好かれるように気を使っていた。そのおかげで人に好かれるようになったが、それでも嫌われた。人生でこれ以上面白い事はないと楽しんでいる最中に、ふっと剥き出しの敵意を向けられたり、お前とは一生の友達だと言った相手が、死ぬまでお前を許さないという感情をこちらに向けてきた事もある。そういう記憶は正(まさ)人(と)の心に深く爪(つめ)痕(あと)を残した。
 中二の秋に好き嫌いは相反するものではなく、同時に存在できるものだと正人は理解した。それで自分は努力の甲斐あって、そこそこ好かれてはいるのだが、同時に嫌われている事も分かった。人に好かれるように気を使うのが嫌になったが、やめようとは思わなかった。好意が消えて悪意だけが残るような気がしたからだ。
 だが、高校二年の九月、正人に限界がきた。こんな生活はもう続けられないと嫌になり、学校を辞めたいと考えるようになった。しかし、ただ辞めると言えば親に止められるのは目に見えていたので、ずっと言い出せずにいた。
 ふとしたきっかけで同級生と殴り合った。何が理由でとも思い出せないぐらい些(さ)細(さい)なことが原因で、始めは向こうも殴り返してきたが最後は一方的に殴るだけになった。殴っている最中にこれで学校を辞められると正人は冷静に考えていた。男性の体育教師に後ろから腕ごと抱え上げられた時はこれで終わるのだと思って、顔には笑みが浮かんだ。
 しかし学校はただのケンカで処理しようとした。相手の親も問題にしようとはしなかった。三日も経つと誰もそのことを話さなくなり、殴った相手はまだ顔に青いあざが残っていたのに『俺が悪かった』と謝ってきた。
 正人は意味が分からなかった。理不尽で透明な物が学校を辞めさせないようにしている。もう一度殴ってやろうかと思ったが、さすがにそれはでやめた。
 結局は親に学校を辞めたいと言った。親がケンカに何か原因があるのかと一度訊いてきたので、正人がそれにうなずくと親は納得した。しかし、もっと根本的なところに原因があるような気がした。それが何かは正人にも分からない。ただ在るということが分かるだけだ。
 正人は高校を中退した。
 学校を辞めてからは何をするでもなく、ただ日々を過ごしたが、ある日叔(お)父(じ)が家に来た。正人に用があるらしい。
 叔父はまず高校を中退してこ…

グッドライフ高崎望 リリース記事

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kindle unlmited、キンドルオーナーライブラリーで読めます。
グッドライフ高崎望/牛野小雪 高崎望は14歳の秋に学校へ行けなくなった。
幸いにも担任の先生の尽力により高校に進学するが、
彼が入った上等高校は不良が集まる危険な学校だった。
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1 上等高校受験
「望(のぞむ)君は、やればできる子だからがんばって!」
 車の中から母親が声をかけた。息子の合格を心から信じている目をしていた。どうしてそこまで信用できるのか望には分からなかった。
 二人は上等(じょうとう)高校の正門前にいた。今日は入学試験日で、門内には親子連れの学生が何人もいたが、望は一人だけだった。
 母親は一緒に行くと、何度も言っていたが、中三にもなって母親と一緒に歩くなんて恥かしいと望は思っていた。『来たら殺す』と望は言い続けて、三日前に渋々(しぶしぶ)という感じで母親はついてくるのをやめた。他の子もそうしているだろうと思っていたが、みんな親子連れで子ども一人の方が珍しいぐらいだった。
 望と同じ学校の制服を着た子が何人かいた。顔は知っていたが名前は知らなかった。数人で固まって話をしている。
 校舎の門が開いた。
「試験を受ける方(かた)はこちらへ! 保護者の方はあちらへ!」
 スーツを着た男が白い息を吐きながら大声を出した。たぶんこの学校の教師だろう。
 望が校舎へ向かっていると担任の先生が自分の生徒達の肩を叩いて言葉をかけていた。望は先生に捕まらないように、そっと通り過ぎようとしたが肩を捕まれてしまった。顔を横に向けると先生と目が合った。
「高(たか)崎(さき)、がんばれよ」
 先生はそれだけを言って望の肩を二度叩いた。望はただうなずいた。
 教室に入ると、決められた席に座った。近くに同じ制服の子が二人いて、小さな声で話していた。顔は見たことがあるが、やはり名前は分からなかった。望のことを話しているような気がした。
 受験生が全員席に着いて静かになると、その二人は喋るのをやめた。
 教室に試験官が三人入ってきて、テスト用紙が配られた。学校のテストのような一枚の紙ではなく、プリントを何枚か重ねて綴(と)じた物だ。一番上には数学と書いてあり、その下に受験番号と名前を書く欄があった。
 時計が試験開始時刻を指すとチャイムが鳴った。
「それでは試験を開始してください」と試験官が言った。
 周りから紙をめくる音が聞こえた。望も氏名と受験番号を書くと一番上の紙をめくった。
 望はテスト前に山のような参考書を一週間で通り抜けていた。手のひらぐらいの厚さはあっただろう。今思い返すとちょっと信じられない。
 父親は仕事から早く帰ってくると、付きっきりで望の勉強を見ていた。一日のノルマが決…